フーシャ村では昨日、1億ベリーと想定される「悪魔の実」を村の少年が食べてしまったという事態が起こった。

 あまりにも驚いた村の者たち、又は「悪魔の実」を所有していた海賊たちがその少年から「悪魔の実」を吐き出させようとしたが駄目だった。

 気づいたときにはその少年はすでに体が伸びるようになっており、「悪魔の実」の能力者になっていたのだ。

 「悪魔の実」の能力者は海に嫌われるという。

 よって、泳げない体。

つまりカナヅチになってしまうのだ。

 その少年は海賊になるのが夢であった。

 海賊が泳げないなんて自殺行為だ。

 可哀相に、と周りの皆が同情をしていると、当の本人は「全く問題なし!」みないな感じだった。

 本人がショックを受けていないのなら、まあよいかと皆の判断でその場はお開きとなった。

 所有していた海賊も「悪魔の実」よりも、その少年の方が大事だったので、盗み食いの罰だけ与えた。

そして次の日。

「ふ〜あぁ」

 大きな欠伸と共に赤髪海賊団の船長、シャンクスが女主人マキノが経営している店にやってきた。

「いらっしゃい。どうも眠そうね」

 マキノはどうぞ、といいながらカウンターの席を指した。

「いいや〜、昨日は飲みすぎちゃってね。何せあんなことがあったもんで。自棄酒ですよ、自棄酒」

 シャンクスは椅子に座る。

「何になさいます?」

「う〜ん、そうだな。じゃあ、ビールを」

「ビール?昨日飲みすぎたんじゃないんですか?」

「迎え酒ということで」

「はい、わかりました」

 くすくす、とマキノは笑った。

 マキノはカウンターの中にある酒樽からビールを注いだ。

「しかし、何で昨日の事で自棄酒になるんですか?」

 はい、どうぞ。とマキノはビールをシャンクスの前に差し出す。

「だってさ、ルフィは俺のせいで悪魔の実の能力者になっちゃったんだよ?すげー責任感じるよ。アイツ、海賊になるのが夢だったのに」

 そう言うとビールを一息で飲む。

「俺があの時悪魔の実なんてここに持ってこなかったら、アイツは食わなかっただろうし」

 はぁ〜、とシャンクスはため息をつく。

「大丈夫ですよ。あの子気にしていないみたいですし。それに、あの子が悪いんですから。勝手に人様のものを盗み食いするなんて・・・。きっと罰があたったんですわ」

 にっこりと、笑いながらマキノは言った。

「そう言っていただけると少し気が楽になりますよ。ありがとう、マキノさん。――――そう言えば、ルフィはどうしたんです?いつもこの時間ならいるはずなのに」

 シャンクスは店内を見回すが、ルフィの姿が見えない。

「さあ?どうしたんでしょうか。さっきまではいたんですけど・・・。遊びに行って来ると言ってそのままなんですが」

 首を傾げた。

「・・・まさか海に行っているとかいうことはないですよね」

 シャンクスの脳裏に嫌な予感が過ぎる。

「まさか!昨日悪魔の実を食べて、泳げなくなったっていうのは知っているはずですよ?」

 マキノは苦笑した。

 そんな筈はないと、自分に言い聞かせながら。

「でも、ルフィですよ?」

「・・・・・・・」

 その言葉にマキノは押し黙った。

「何か心配になってきた。ちょっくら行って見てきます。思い過ごしならいいんですけど」

 シャンクスは椅子から立ち上がると、店を出て行こうとした。

 マキノはシャンクスを呼びとめ、

「シャンクスさん!ルフィをお願いします」

 そう言った。

 シャンクスはその言葉を聞くと、

「ええ、勿論」

 思い切り頷き、店から出て行った。

**********

 ふん、ふふん〜、と鼻歌を歌いながらルフィは砂浜で遊んでいた。

 砂で城を作ったり、砂浜に棒で絵を描いたりしていた。

 すると、パシャッ!と波の音以外に水の音がする。

 なんだろうと思い、海を見ていると、数匹の魚が海面上を跳ねていた。

「うわぁお。魚だ〜」

 太陽の日差しが魚たちを照らす。

 飛び上がった時の魚たちが見せるキラキラとした水しぶきにルフィは目を奪われた。

「すげー!―――よ〜し、捕まえるぞ!」

 ルフィはそう言うと海の中へ入っていった。

 ばしゃばしゃ、と景気良く音を立てて進む。

 しかし、その足取りは段々重くなっていって、途中で止まった。

「あれ?何だか力が抜けるぞ・・・」

 膝下まで浸かっている足を見る。

 すると、足元に先ほど見た魚がルフィの足元をクルクルと回っていた。

「あっ!さっきの魚だ」

 ルフィは腰を曲げてその魚を掴もうとした時に、ふと足をすくわれた。

「うわぁ!」

 バシャン、と音を立ててルフィは海に転ぶ。

 いつも通り起き上がろうとするが、力が抜けて中々起き上がれない。

 もがこうとしてももがく力がない。

 手を伸ばせばすぐ、海から出ることが出来るのにそれさえもままならない。

 そのうち呼吸が苦しくなってきて、ガボッと息を吐いてしまった。

「・・・・ッ!!」

 海水が口の中に入ってきて、何口か飲んでしまう。

 もう、駄目・・・。

 そう思ったときに、影がルフィの前に差し掛かった。

 大きい手が伸びてきて、ルフィを掴みあげる。

「ルフィ!ルフィ!!」

 パチパチ、と頬を叩く。

 けほっ、と海水を吐き目を開けた。

「ルフィ!・・・良かった」

 ほっと、息を吐き砂浜まで連れて行く。

 ルフィを砂浜に下ろして、横たえた。

「大丈夫か?」

 心配そうな顔でシャンクスが覗き込む。

 ルフィは軽く頷き、

「シャン・・・クス・・・。大丈夫・・・」

 そう言うとケホケホ、と咳をした。

「バカ!!!一体お前は何をしてるんだ?!昨日俺たちの話を聞いてなかったのか?」

 シャンクスはキッ!とルフィを睨んで怒鳴った。

「ご、ごめんなさい・・・。でも、魚がとても綺麗で」

 ルフィはむくり、と上半身を起こす。

「でもじゃないだろう!お前は泳げないんだぞ!それなのに海に入るなんて自殺行為だ。もうお前は1人じゃ海に来ては駄目だ。いいな、わかったか?」

 怒りのあまりかシャンクスの口調が早口になっている。

 ルフィはシャンクスの剣幕に驚き涙を流した。

「ご、ごめん・・・な・・・さい」

 謝る言葉が途切れ途切れになる。

 シャンクスはその泣き顔を見ると、深くため息をつき、

「よかった・・・。もう、二度とこんな馬鹿な真似はするなよ」

 シャンクスはぎゅう、とルフィを抱きしめた。

「よかった・・・。何ともなくて・・・」

 その声が震えているのがわかる。

 本当に心配したんだという証しだった。

 ルフィもそのことがわかると、シャンクスの胸で思い切り泣いた。

 よかった、本当によかった・・・。

 シャンクスは心の中でほっと、胸を撫で下ろした。

 ルフィが溺れているとわかった瞬間。

あの時の気持ちは計り知れないほどの焦りに捕らわれていた。

愛しい子を失うと思った瞬間。

 我を忘れて海に入った。

 引っ張りあげたときに感じだ、安堵感。

 ・・・生きていた。

 そうわかった時、泣きそうになったが、すぐに怒りが込み上げてきて怒鳴ってしまった。

 ルフィを失うなんて真っ平だ・・・。

 シャンクスは熱い血が通っているルフィを抱きしめて生きているという実感を味わう。

 ったく、心配かけやがって・・・。

 未だに泣いているルフィを見る。

「もう、こんな心配させんじゃねーぞ」

 ぽつりとシャンクスは言った。

 この子を失うなら自分が死んでもいい。

 そう思うほどシャンクスは溺愛していた。

 力強くルフィを抱きしめると、シャンクスはルフィが泣き止むまでずっと抱きしめていた。

 

 

 

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