ここはフーシャ村。 普段は何事もない平和な生活を気づいているが、今は違う。 というかここ数ヶ月の間、平和から少し離れているのが現状だ。 今、この風車村には海賊、いや、世界に名を知らしめている大海賊、赤髪海賊団が停泊しているのだ。 そのお陰で、村人たちは戦が起きるのではないかと最初は心配していたが、実際に、船員と向き合っていると柄は悪いが良い人たちだと気がついた。 次第に打ち解けて、今では挨拶まで交わし、夜になると飲み明かすこともあるというとても可笑しな現象になっているのだ。 この海賊団がいるお陰で外的からの攻撃は少なくなり、平和は保たれている。 たまに赤髪海賊団を倒して名を上げ様とバカな連中も居るが、それはごくたまに。力の差を考えると、そう滅多に赤髪海賊団には手が出せないのだ。 このごくたまにの戦で少し村に迷惑が掛かるがそれは頭であるシャンクスがちゃんとフォローをするので、とりとめもなく無事に、平穏に暮らしている。これが平和から少し離れた理由。だが、山賊や他の海賊から守ってもいるので、とんとんだ。 村の中で海賊団が集まっている場所は一つ。 女主人が経営している酒場だ。 今日もそこには幹部をはじめとする海賊がそこにいた。 その中には子供が一人大勢の輪の中に入って騒いでいた。 「ルフィ、今日は何のゲームをする?」 向き合ってる赤髪の男、シャンクスがそう子供のルフィに告げた。 にやにやとして、何を考えているかわからない優男。だが、この男こそが、赤髪海賊団の頭、船長であることには間違いはないのだ。 ルフィはそのにやにやしている顔が苛つくのかキッ、と目を吊り上げてシャンクスを見た。 「むぅ〜。今日はどれだけ皮膚が伸びるかだ!」 ルフィは自分の頬の皮膚を掴むとビヨ〜〜ンと伸ばした。 「そんなの勝負になんねーだろ!」 両腕いっぱいに伸びているルフィの皮膚を見てシャンクスは叫ぶ。 ゴムゴムの実を食べたルフィにそんな勝負は勝てるはずがない。世界中を探してもこの勝負は勝てないだろう。 「その皮膚伸ばし以外だったら俺は何でもいいぞ?」 余裕たっぷりの笑みを浮かべてシャンクスは仰け反った。 その余りにも偉そうな態度にルフィは唇を尖がらせる。 「じゃあ、かけっこだ!シャンクスの船までかけっこで勝負だ!」 これなら文句はないだろう!とルフィは胸を張って言う。 「OK。言っておくが俺は手抜きはしないからな」 シャンクスは立ち上がってルフィを見下す。 今までの戦績は10勝0敗。全てシャンクスが勝っている。 周りからは大人気ないとかバカ、とかアホとか言われるがこれはこれ、それはそれ、勝負は勝負。 挑まれたからには真剣勝負をしなければ申し込んだ相手に、つまりルフィに申し訳ないとシャンクスは思っている。 表向きは。 実際はただの負けず嫌いで子供相手にムキになって勝っている大人気ないただのバカである。 それは目に入れても痛くはないぞ!というぐらいとてもとても可愛がっているルフィとて例外ではない。 勝負というからには心を鬼にして勝つ! それがシャンクスの信念だった。 「わかってらい!今度こそ勝ってやる!!どっちが早く船の甲板に上がるか勝負だ!」 グッ、と握りこぶしを作ってシャンクスに差し出した。所謂宣戦布告である。 「上等!受けてたとうじゃないか!」 かっこよくそう言ってみたものの、周りからは既にバッシングの嵐。 「ルフィ!今日こそは勝てよ!」 「こんな大人気ないガキみたいなバカに負けんな!」 「俺たちは全員ルフィの味方だからな!」 野次がシャンクスを直撃する。 「おい!それはお前らの上に立っている奴に向ける言葉か!とうかバカは余計だろう!バカは!」 ガゥ!とシャンクスは唸る。 怒っているシャンクスを怖くは無いのか周りは爆笑する。 「むむむっ!ルフィ!今日は覚悟しておけよ!絶対に負けないからな!」 「望むところだ!」 二人はお互いを睨みつけると外に出た。 手回しの良い船員たちのお陰で準備は万端。 律儀に、土の路に木の棒で線が描かれてある。どうやらこれがスタートラインらしい。 その線に二人は立ち走る構えを取った。 「シャンクス!俺が勝ったらケーキとパフェ奢ってね!」 フンフンッ、と鼻息荒くこの勝負の景品を述べる。 いつものシャンクスならこのルフィの可愛さに、鼻の下が伸びるのだが、今回は違う。ふんっ、と鼻で笑いにやりと笑った。 「俺に勝てたらな。俺が勝ったらお前と夜を―…。痛っ!痛いって!」 その先を言おうとした瞬間、周りから石や酒瓶が飛んで来た。船員たちはコントロールが抜群で、ルフィにかからないようにシャンクスのみを目掛けて投げつけている。 「お頭、それだけは絶対にさせないぞ」 「毒牙にかけてたまるか」 「絶対に死守する!」 ボスをボスとも思わないやつ等は腕組みをして、堂々と言い放った。皆ルフィのことを気に入っていて、父親気分なのだ。そんな大切なわが子をバカみなたいなシャンクスの手にかけさせるわけにはいかない。 そう思う故の行動だった。 シャンクスはそれをわかっているから、こういう態度を取られても表にはこの野郎!とか文句は言うが内心、いい奴等ばかりなのでほくそ笑んでいるのだ。 「わーった、わーった!何にもしねーよ!…全く、ウチのクルーときたら…」 ぶつぶつと文句を言う。 「二人とも用意はいいか!?」 すると幹部の一人、ヤソップが愛用の銃を上に構えていた。 「おうよ!」 「いつでも来いだ!」 ルフィとシャンクスは気合充分だ。 「よーい、ドンッ!」 バンッ!と派手な音が鳴り二人一斉にスタートする。 勢い良く飛び出し、同時に目的地の船に向かって駆けて行く。 最初は並んでいたが、やはり大人である足の長いシャンクスにコンパスの差でやられ、徐々に差が開いていく。 どどどどどっ、と全速力で走るが一向に追い付く気配がない。追い付くどころか離されて行く。 ルフィはギリッ、と歯を食いしばって持てる限るの力を腕と足に使った。思いっきり腕を振って足を上げて走る。 「うぉぉぉぉぉぉ!!!」 子供の甲高い声が辺りに響いた。 効を奏したのか、徐々に差が縮まっていく。 いや、縮まっていたのではない。シャンクスが腕組してゴール目前で待っていたのだ。 船に掛かっている足場の下で。 シャンクスはルフィの姿を見つけると、にやりと笑った。 「意地悪いぞ!お頭!」 「アンタそれでも男か!」 「ルフィ頑張れ!」 追いかけてきた連中がシャンクスの姿を捉えるとそう罵倒した。 「うん!皆ありがとう!!」 ルフィは諦めずに一生懸命に走る。 後数メートルだ!ということころまで来たときに、それは起こった。 「うわぁっ!」 ルフィは道端にあった小石に躓き、足がもつれると顔から地面に激突した。 「ルフィ!!!」 シャンクスは暢気に腕組していたのを止め、急いでルフィの元に駆け寄った。 「いててっ…」 ルフィは痛みを堪えてゆっくりと起き上がる。その顔は大きい擦り傷があった。傷に砂が入っていて痛々しい。 「大丈夫か!?」 シャンクスは傷に触れないように優しく砂を取ってやる。 「顔以外に怪我したところはあるか?」 体を見ると、手足に多少なりの擦り傷はあるが、顔と比べればなんてことはないので、シャンクスはほっとした。 「どうやら、殆どの衝撃を顔で受けたみたいだな」 ルフィは泣くまいと口を一文字に結んで泣くのを堪えていた。 そんなルフィを見てシャンクスは愛しく思う。 ルフィを抱え上げ、シャンクスは船に向かって歩き出した。 「おい、救護班!早く薬でも用意しろ!それと水だ!真水だぞ!海水なんか用意したらタダじゃおかねーからな!」 キッ、と船員たちを見て指示を出した。 「「イエッサー!!」」 すると数人が声を上げて船に駆け込む。 顔の痛みと砂が気になるのかルフィは顔を指で擦っている。 「おっと、ルフィ擦るな。更に傷がついちまう」 片手でルフィの手を奪い、止めろと、注意する。 「…でも痒くて」 「痒くても駄目だ。水で洗い流すまで我慢しろ」 めっ、と叱る。 「…わかった」 目に沢山の涙を溜めてルフィは頷いた。 本当ならば泣き出したいのに、シャンクスや皆がいる手前では泣くのはみっともないと思ったのか、ずっと堪えている。 そっとルフィの涙を指で拭ってやった。 「あっ!!」 するとルフィは大きな声を突然出した。 「な、何だ?どこか他に痛いのか?」 突拍子もない声を出したので、シャンクスは真顔になってルフィに尋ねる。 「うんん。何でもないんだ。あの、シャンクス、ちょっと降ろして」 ルフィは泣きそうな顔が何故か笑顔に変わっている。 シャンクスは眉間に皺を寄せながらもルフィの言われたとおりに降ろした。今、丁度船に掛かっている橋を渡っていたのでルフィが転がっていかないように、平らな場所に降ろした。 「ありがとう、シャンクス」 そう言うとルフィはにかっ、と笑った。 するとぴょん、と甲板に飛び降り「ゴーーーール!!!」と叫んだ。 「はぁ!?」 シャンクスはルフィの言葉の意味がわからなくて顔を歪めた。 「だから、ゴールだよ、シャンクス。さっき勝負したでしょ?どちらがここに先に着くかって勝負」 「確かにしたが、それは今は無効だろう!?」 「無効じゃないよ。勝手にシャンクスが運んだんじゃないか。勝負は勝負!」 ビシッ、と指を指してシャンクスに向けた。 「んなっ!?」 思いも寄らないルフィの言葉に唖然とするシャンクス。 確かにルフィの言うとおり、どっちかが先にココに着くかの勝負だった。今勝者であるルフィが立っている場所に。 そうだけど、だけども…。こんなのありか!? 信じられない、といった気持ちでわなわなを体を振るわせる。 「何だ、ルフィが勝ったのか。良くやったぞ、ルフィ」 この船のbQであるベンがシャンクスを押しのけて甲板にやってきた。 「うん!勝ったよ!とりあえず!」 にっこりと笑いベンに向かってピースをする。 その姿がとても可愛い。顔に傷がなければ何百倍も…。 「ベン!これは無効だろ!?だってルフィ怪我してるし」 シャンクスは丁度よい所に現れた、とベンを歓迎し、ルフィを説得してくれと目で訴えた。 「…お頭、勝負なんていうのか結果が全てなんだぜ?アンタ、ソレぐらい知っているだろう?」 ボスに向かってアンタ呼ばわりのベンは勝者であるルフィを抱えた。 「ベ、ベンまでそんなことを…!?」 よろっ、と後ずさりした。 「誰か他に俺の味方はいないのか!?」 「いない。諦めろ」 するとシャンクスの後ろからヤソップが現れた。 「…ヤソップ〜」 シャンクスは泣きそうな声を出す。 「良くやったな、ルフィ。どんなときにも勝負を諦めず、事を上手く使えってことがようやくわかったか」 よしよし、と抱えられているルフィの頭をヤソップは撫でた。 「うん!俺、諦めなかったよ!途中で転んだときは駄目かと思ったけど、でも諦めなかった!」 頭を撫でられてご機嫌のルフィはにこにこと笑っている。 「お前かー!ルフィに変な知恵をつけさせたのは!」 がぉぉぉ!!と叫ぶ。 「お頭、うるさい」 じろり、とヤソップとベンに睨まれてシャンクスは小さくなる。 「ささっ、ルフィの手当したら祝勝会でもやろうぜ」 「いいな。じゃあ、とりえず部屋に運ぶか」 「やったー!!」 3者3様の喜びに、シャンクスは置いていかれたような気がして、寂しくなった。 「きょ、今日はルフィの勝ちにしておいてやる!だから…、だから、俺も混ぜてください」 偉そうに言った割には最後の方はおしとやかなシャンクスの口調に3人は笑った。 「勿論だよ!シャンクス!あっ、でもケーキとパフェ奢るの忘れないでね」 ルフィはそう可愛らしい笑顔でそう言った。 「…ああ、どでかいケーキでも贈ってやるよ」 嬉々としているルフィを見ていると負けたことなんてどうでもよくなってくる。ほんわかと胸が温かくなり、シャンクスも笑った。 やっぱり、ルフィには叶わないぜ。この笑顔にはな。 くくくっ、とシャンクスは笑うと、 「早く、ルフィの手当しちおうぜ」 3人を部屋の中に促した。 |
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